HRC + FreeBetRange:ICM計算から実践トレーニングへ
こんな状況を想像してみてください。あなたはオンラインのトーナメントをプレイ中。インマネまであと3人。スタックは14ビッグブラインド。次のプレイヤーがオールインを宣言。手札を見ると — Q♠9♠ —「これはコール?それともフォールド?」と考えます。
ほとんどのプレイヤーはここで直感に頼ります。コールする人もいればフォールドする人もいて、どちらも「それっぽい」理由を説明できます。でも、正解は1つだけ — しかもそれは数学的に正確に計算できます。
まさにそれを可能にするのがこの記事で紹介するツールです。HRCはこうした状況での最適なプレイを計算し、FreeBetRangeはそれを記憶し、実戦で迷わず使えるようにしてくれます。この2つを組み合わせることで、戦略の構築から実戦での活用までをカバーする完全なトレーニングシステムが完成します。
レンジとは何か、そしてなぜ重要なのか
ソフトの話に入る前に、重要なポーカーの概念を理解しておきましょう。優れたプレイヤーは自分の2枚のカードだけで判断しません。強いプレイヤーは「レンジ」で考えます。つまり、特定の状況で特定のアクションを取るハンドの集合です。
例えば「ボタンにいる。どのハンドでオープンレイズすべきか?」— これはレンジに関する質問です。答えは「すべてのポケットペア、A9以上のすべてのエース、KQ、KJ、KTs、QJs…」といった形になります。具体的な内容はフォーマット、スタックサイズ、その他多くの要素によって変わります。

こうしたハンドリストを保存・学習・記憶するために、専用ツールが使われます。
HRC(Holdem Resources Calculator)とは
HRCはPCにインストールして使うソフトで、主な目的はトーナメントポーカーにおける数学的に最適な戦略を計算することです。

簡単に言うと、HRCはICM(Independent Chip Model)を使用します。これはトーナメントチップを実際の賞金価値に変換するモデルで、スタックサイズ、賞金配分、敗退リスクなどを考慮します。トーナメントではスタックが2倍になっても期待賞金が2倍になるわけではなく、全チップを失うことの損失は非常に大きいです。HRCはこれらを考慮して最適なレンジを計算します。
HRCが実際にやること
例えばこんな状況:ファイナルテーブルでスタックは15BB、前のプレイヤーがレイズしてきた。あなたはどうするべきか?オールイン?フォールド?コール?HRCはそれぞれの選択が数学的に利益を生むハンドを正確に計算します。
結果はレンジとして出力されます:「これらのハンドはオールイン」「これらはコール」「残りはフォールド」。すべては敗退リスクと賞金ジャンプの価値に基づいています。

HRCには2つのバージョンがあります:
- Classic — ほとんどのトーナメント状況に対応。プッシュ/フォールド、レイズ、3ベット、4ベットをあらゆるスタック深度でサポート。制限はポストフロップ計算で、25〜30BB以上の深いスタックでは簡略化されます。
- Pro — より高度なバージョンで、複雑な状況や制限のないポストフロップ分析が可能。ディープスタックを扱う場合や最大精度を求める場合に最適です。
以下の例ではHRC Proを使用します。
「ナッシュ均衡」とは
これは数学的な概念で、他のプレイヤーが最適にプレイしている限り、自分だけ戦略を変えても結果を改善できない状態を指します。簡単に言えば、正しく使えば長期的に搾取されない「アンエクスプロイタブル」な戦略です。
HRCはまさにこのナッシュレンジを計算します。
FreeBetRangeとは
FreeBetRangeはオンラインアプリ(ブラウザで動作、インストール不要)です。目的はまったく異なり、戦略を計算するのではなく、完成されたレンジを学習・記憶することです。
FreeBetRangeでできること:
- レンジの閲覧 — 色分けされた169ハンドのマトリクスで視覚的に確認。
- 比較 — 複数の状況を並べて比較。
- トレーニング — 実際のプレイのように「このハンドでどうするか?」に答える。
- 独自レンジの作成 — 自分のプレイスタイルに合わせて調整可能。

FreeBetRangeにはキャッシュゲームとトーナメントのGTOソリューションが内蔵されていますが、最大の特徴は自分のHRC計算をアップロードできることです。
アプリはいくつかのセクションに分かれています。ここではHRCと連携する主なものを紹介します:
- GTO Library — キャッシュゲーム(NL25、NL100、NL500など)やMTT、Spin & Goの完成済みGTOレンジ。正確な頻度付きのものと、丸めた簡略版の両方があります。
- Viewer(ビューアー) — レンジを視覚的に表示。インポート後の学習に使用。
- Trainer(トレーナー) — 実戦形式で意思決定を練習するモード。
- Editor(エディター) — 自分のレンジを作成・調整。
- MDA — 3億ハンド以上の実データから作られたポピュレーションレンジ。傾向分析やエクスプロイト戦略に役立つ(Eliteプラン)。
なぜ併用するのか
ポイントはこれです:HRCは計算に強いが学習には不向き。FreeBetRangeは学習に最適だが計算はできない。この2つを組み合わせると:
- HRC = 「自分のフォーマットに最適な戦略を計算する」
- FreeBetRange = 「その戦略を学習・記憶する」
FreeBetRangeがなければ、HRC内でスクロールするかExcelで管理する必要がありますが、FreeBetRangeなら1つのファイルでアップロードし、見やすいUIとトレーナー機能を活用できます。
HRCからFreeBetRangeへデータを移す方法(ステップ解説)
手順は2つのパートに分かれます:HRCからのエクスポートと、FreeBetRangeへのインポートです。
パート1:HRCからエクスポート
HRCで計算が終わったら、上部メニューのHandからExport Strategiesを選択します。

設定ウィンドウが開き、以下を選択できます:
- 含めるスポット — 特定のスタックやアクションなど。
- 深さ(Depth) — 意思決定ツリーの展開レベル。
迷った場合はデフォルトのままOKを押せば、全データがエクスポートされます。

結果は.zipファイルとして保存され、計算されたすべてのレンジが含まれます。保存場所を確認しておきましょう。
重要:ファイルサイズは100MB以下である必要があります(FreeBetRangeの制限)。通常のトーナメント計算なら問題ありませんが、大きすぎる場合はHRCでDepthを下げるかノード数を減らしてください。
パート2:FreeBetRangeにインポート
HRCからの一括インポート機能はProプラン以上で利用可能です。ブラウザでFreeBetRangeを開き、上部のUploadボタンをクリックし、Mass Import from HRCを選択します。

.zipファイルをアップロードすると、3つの設定が表示されます。
設定1:Round Weights
非常に便利な機能です。HRCは「レイズ37%」のような正確な頻度を出力しますが、実戦でそれを再現するのは困難です。
Round Weightsは頻度を0%、25%、50%、75%、100%に丸めます。戦略の精度を保ちながら実戦で使いやすくなります。有効化を推奨します。
設定2:アクションカラー
レイズ、コール、チェックの色を選択します。見た目だけなので好みでOKです。
Importをクリックすると、数秒でレンジがフォルダ構造として表示されます。
詳しくは公式ガイドも確認してください。
Viewerでのレンジの見方
インポート後、Viewerを開きます。表示方法は2つ:
- Single Rangeモード — 1つのレンジを表示
- Multi Rangeモード — 複数レンジを同時表示
下部のフォルダから戦略を選び、任意のスポットをクリックするとマトリクスが表示されます。


13×13マトリクスとは
169セルのグリッドで、それぞれが特定のハンドを表します。例えば「AA」はポケットエース、「AKs」はスーテッドA-K、「72o」はオフスート7-2です。
色はアクションを示します:
- 単色 — 常にそのアクション(100%)
- 複数色 — 頻度に応じたミックス戦略
- 白/グレー — フォールド

状況の切り替え方法
マトリクスの横や下にあるボタンで意思決定ツリーを移動できます。例えばオープンレンジから、それに対する対応レンジへと切り替えられます。
EVマトリクス:「なぜそれが正しいのか」
マトリクス下のEVアイコンをクリックすると、色の代わりに数値が表示されます。これは各ハンドの期待値(EV)です。プラスは利益、ゼロ付近やマイナスは微妙または損失です。
これにより、なぜA9sは含まれてA8oは含まれないのかといったロジックが理解できます。

複数状況の比較
Multi-rangeモードで複数のマトリクスを同時表示できます。例えば10BB、15BB、20BBでのプッシュレンジの違いを並べて比較できます。

乱数ジェネレーター
Proプラン以上では、0〜100の乱数ジェネレーターが利用できます。レンジを切り替えると自動更新され、ミックス戦略(例:75%レイズ)で使用できます。
Trainerでのトレーニング方法
Viewerで見るだけでも役立ちますが、本当の学習は実践からです。それを実現するのがTrainerです。
無料プランでは1日50ハンド・5レンジまで、Pro以上では無制限です。
トレーニング作成
Custom >> Add trainingをクリックし、名前(例:「15BBまでのプッシュ/フォールド」)を入力。使用するレンジを選択して保存します。
1つのトレーニングに最大500レンジ追加可能。ドラッグで順序変更もできます。

クラシックモード
実際のテーブルのように進行します。ポジションと手札が表示され、Fold・Call・Raiseから選択。
正解なら緑、不正解なら赤で表示され、正しい答えが示されます。

Hands dealing coverage設定では配られるハンドを調整可能。無駄なフォールドを減らし、難しいスポットに集中できます。
レンジモード
空の13×13マトリクスに自分でレンジを描き、正解と比較します。
難易度は高いですが、長期的な記憶定着に最も効果的です。

進捗の確認
各セッション後に統計を確認できます。Classic statsとRange statsの2タブがあります。
Statisticsタブでは13×13マトリクスで精度を可視化。緑は良好、赤はミスが多いハンドです。

赤い部分を重点的に練習しましょう。感覚ではなくデータに基づいた改善ができます。
初心者はどこから始めるべきか
GTOやトーナメントポーカーを始めたばかりなら、次のステップがおすすめです:
まずはFreeBetRangeから(HRCなしでOK)。 内蔵GTOレンジを使って学習を開始しましょう。
プッシュ/フォールドを習得。 MTTの基礎です。
必要性を感じたらHRCへ。 自分の形式に合わせたレンジを計算して取り込みます。
徐々に応用へ: 3ベット、4ベット、ブラインドディフェンス、バブル付近のICMなど。
まとめ(1分で要点)
- HRC — トーナメントで最適レンジを計算(ICM・ナッシュ含む)
- FreeBetRange — レンジの学習・トレーニング用アプリ
- インポート — Upload → Mass Import from HRCで
.zipを読み込み - Round Weights — 実戦向けに頻度を簡略化
- Viewer — レンジを視覚的に学習
- Trainer — 実践形式で記憶定着
- 統計 — 弱点の特定
これらを組み合わせることで、数学的な計算を実戦スキルへと変換できます。